2013年3月30日土曜日

及び/又は

商標法53条第2項の
「当該商標権者であつた者
 又は
  専用使用権者
  若しくは
  通常使用権者
  であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの」
は「又は/若しくは」ではなく、「並びに/及び」で書くべき内容なのでは?
という質問メールが来たので以下の回答を行いました。

以下、メールの転載です。

「又は」「若しくは」「及び」「並びに」の使い方について、
下記のpdfが理解の役に立ちました。
(すごく勉強になりました。素晴らしいです。)
http://www.aoni.waseda.jp/khonda/paper/NLP-2003.pdf

しかしながら、上記の資料は、
基本的なことが分かっていないと理解が難しいと推測され、
また、アカデミック過ぎるので、
結合詞「又は」に関する基本事項と、上記資料の要点とを記載します。

なお、「又は」などの言葉の基本的な使い方を知りたいのであれば、
「条文の読み方」という本が非常にためになります。
http://www.amazon.co.jp/dp/4641125546

・「又は」とは

「又は」は、複数の言葉を選択的に結合させるため、
選言的結合詞と呼ばれます。

・or用法(=exclusive or用法)

「A又はB」と記載すると、
「AとBとのいずれか一つだけ」と解釈する人も多いと思います。
論理学とかでいうところの排他的論理和="exclusive or"です。

例えば、
「中間試験において、
 平均点80点以上とれば、
 お小遣いを500円増額する又はゲームソフトを一本買い与える」
という文章を読んで、
お小遣いの増額と、ゲームソフトとを
同時にもらえると思った子どもは強欲すぎます。

・and/or用法

しかしながら、「A又はB」と記載すると、
「AとBとの少なくとも一つ」と解釈できる場合もあります。
これは英語の"and/or"という記載に相当します。
この場合、「AとBとのいずれか一つだけ」(="exclusive or")と、
「AとBとの双方に該当する」(="and")と、の両方の意味を有します。

例えば、
「中間試験において、
 国語で80点以上又は英語で80点以上とれば、
 お小遣いを500円増額する」
という文章を読むと、
(a)国語で80点以上とれたが、英語で80点未満しかとれなかった場合
(b)英語で80点以上とれたが、国語で80点未満しかとれなかった場合
(c)英語と国語の双方で80点以上とれた場合
にお小遣いが増額されると普通は思うでしょう。
(c)のケースでお小遣いが増えなければ、その子どもはグレていいです。

上記2つのお小遣いの話で分かっていただけると思いますが、
効果を記載する箇所での「又は」は、主に"exclusive or"用法として解釈され、
要件を記載する箇所での「又は」は、主に"and/or"用法として解釈されます。

なお、日本語の規範である広辞苑においても、「又は」の意味として、
(1)"and/or"用法=少なくとも一つ、(2)"exclusive or"用法=どれか一つだけ
の二つが列記されています。

・商標法53条2項のケース

さて、以上の「又は」の用法が理解できているのならば、
「当該商標権者であつた者
 又は
  専用使用権者
  若しくは
  通常使用権者
  であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの」
の記載を

「当該商標権者であつた者
 並びに
  専用使用権者
  及び
  通常使用権者
  であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの」
と書き換えてもほぼ同じ意味になることがおわかりになると思います。

ここで、条文においては、
>「又は」系と「及び」系の結合詞の使い分けについて,
>一般には次のような規則が設けられている.
>(g) and/orに解釈される場合は,「又は」系を用いる

という規則があるため、
53条第2項の要件部は、「又は」系で記載されているという話になります。

上記pdfで、要件部を「又は」系で記載する理由として、
>要件部の選言的等位構造は異なるCaseの量化を導入する一方で,
>同一のCase内においてはdisjunctionを構成する.
という呪術的な言葉が書かれています。

「異なるCaseの量化」とは、
・Aさん=当該商標権者であつた者
・Bさん=専用使用権者であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの
・Cさん=通常使用権者であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの
というCaseが同時に成り立つことを意味し、

「同一のCase内においてはdisjunctionを構成」とは、
Aさんが取消商標の再出願を行ったCaseにおいて、
・Aさん=当該商標権者であつた者
・Aさん=専用使用権者であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの
・Aさん=通常使用権者であつた者であつて前項に規定する使用をしたもの
ということが(普通は)同時になりたたないことを意味します(と思います……)。

2013年1月27日日曜日

仮専用実施権に係る特許出願の取り下げの承諾


>41条の出願のとき、仮専のみ承諾としているのか理由を
>知っている方はいらっしゃいませんか?
>仮専の場合は承諾としておいたほうがなにか都合が良いのでしょうか?

という質問がMLに流れていたので以下の解答を行った。
多分正しいと思うんだけど。

仮専・仮通は、特許を受ける権利ではなく、
その特許出願について将来発生する特許権に係る権利である。
(34条の2第1項、34条の3第1項)

出願が取り下げられると、
その将来発生する特許権は存在しなくなるため、
原則的には、仮専・仮通も消滅する。
(34条の2第6項、34条の3第10項)

ここで、41条1項ただし書きの規定が存在しないと仮定した場合に、
新たに国内優先権主張を伴う出願がなされると、
仮専者の承諾がないまま原出願が取り下げられることとなる。
さらには、原出願の仮専者の実施は、
新たな出願によって発生する特許権の権利範囲に属することとなる。
このため、仮専者は実施の継続が困難になる。

そこで、出願を取り下げるには、
仮専者(=特許庁が把握可能な登録を備えたもの)の
承諾を要することとした。
(青本147P)

つまりは、民法の私的自治の原則=契約自由の原則から、
優先権主張に伴う取り下げの承諾についての協議と同時に
新たな出願についての新たな仮専の許諾について協議がなされ、
優先権主張を伴う新たな特許出願を行った後、
改めてその仮専が許諾されて登録されることが考えられている規定だと思われます。

一方、仮通については、
仮通常実施権の登録制度が廃止され、
仮通常実施権者を特許庁が把握できなくなったことから、
国内優先権主張の際に仮通常実施権者の承諾が不要とした。
(青本147P)

さらに、仮通常実施権者の実施の継続を確保するための承諾に代わる措置として
新たな出願について仮通が許諾されたものとみなす規定を設けた。
(34条の3第5項の趣旨:青本108P)

(追記)
元の質問を読み直すと、
分割出願の場合には仮専者の許諾が不要で、
国内優先権主張を伴う新たな特許出願を行う場合には仮専者の許諾が必要なのは何故か
という質問も含まれていたように感じた。

でも、
分割の場合は分割元の出願が取り下げられるわけでもないから、
原則的には分割元の仮専用実施権の権利内容が変化するわけでもないしなぁ……