2014年8月28日木曜日

カプコン社の特許3350773号

カプコン社の特許3350773号の概説です。
ざっと読んだだけなので、細かい部分がいい加減だったりしますので、その点はご容赦願います。

http://www.patentjp.com/09/T/T100452/DA10003.html

この特許ですが、"シリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えて行くことによって、豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにすることをその課題とする。"と記載されている通り、

「シリーズもののゲームについて、新作を購入したときに、旧作を持っていると、新作で追加要素が遊べる」ことを主眼とした物です。

さて、特許についての書類はおおざっぱに、技術解説書である「明細書,図面」と、権利書である「特許請求の範囲」から構成されています。

以下、明細書の記載について、図1に基づいて説明を行います。




まずは、ソフトウェアの構成の説明からです。

図1には、第1~第3CD-ROMが描かれています。
ここで、ゲームのシリーズ名を、例えば、「ファイナルクエスト(略称:FQ)」としておきます。
第1CD-ROM:FQ1のディスク
第2CD-ROM:FQ2のディスク
第3CD-ROM:FQ3のディスク
とします。

「第1CD-ROM:FQ1のディスク」には、
・ゲーム用プログラムデータ=FQ1の本編プログラム
・第1のキー=FQ2用のキー
が記憶されています。

「第2CD-ROM:FQ2のディスク」には、
・標準ゲームプログラムデータ=FQ2の本編プログラム
・拡張ゲームプログラムデータ=FQ2の拡張データ
・制御用プログラム
・第2のキー=FQ3用のキー
が記憶されています。

「第3CD-ROM」には「第2CD-ROM」と同様のデータが記憶されています。

次に、ソフトウェアの動作の説明を行います。

「FQ2のディスク」がゲーム機に装填されると、「制御用プログラム」が読み込まれ、【「FQ1のディスク」をお持ちの場合は、ゲーム機に装填してください。】というインストラクションが画面に表示されます。

ユーザーがインストラクションに従って、「FQ1のディスク」をゲーム機に装填すると、「FQ1のディスク」の「第1のキー」が読み込まれ、その後「FQ2のディスク」を再度装填すると、標準のゲーム内容である「FQ2の本編プログラム」に加えて、拡張されたゲーム内容である「FQ2の拡張データ」が作動させられることになります。

なお、「FQ3のディスク」を装填すると「FQ2のディスク」の装填を促すインストラクションが表示され、同様の動作を行います。

このように、新作ゲームを購入した場合に、旧作ゲームを持っていると、お得に遊べる技術に関する特許であることが分かります。

さて、ここで、カプコン社が取得した権利はどういったものでしょうか。
権利書である「特許請求の範囲」の「請求項1」には、

(A:前提部分)
ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶する記憶媒体を所定のゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、
(B:ハードウェアやソフトウェアの構成)
上記記憶媒体は、
少なくとも、所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、
所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対し、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するように形成されたものであり、
 (C:ソフトウェアの動作)
上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、
上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、
 上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、ゲームシステム作動方法。

と書かれています。(カッコ内と改行は筆者による)

「A」には、基本的な構成が書かれています。
ここで、「明細書」では、CD-ROMと書かれていたところが、「特許請求の範囲」では「記憶媒体」となっています。ですので、特許権としては、CD-ROMのような光学ディスクだけではなく、カセット形式のものも含まれることになります。
ただし、「ゲーム装置に装填して」と記載されていますので、常時装着型の記憶媒体であるHDDにダウンロードするようなゲームは、本特許の技術に含まれないと考えられます。

「B」には、
・「ゲームプログラムなど(FQ1の本編プログラム)」「所定のキー(FQ2用のキー)」
を包含する第1の記憶媒体(第1CD-ROM)
・「標準ゲームプログラムなど(FQ2の本編プログラム)」「拡張ゲームプログラムなど(FQ2の拡張プログラム)」を包含する第2の記憶媒体(第2CD-ROM)
の2つの記憶媒体を備える構成であることと、
拡張ゲームプログラムの具体例(使えるキャラが増えるなど)が列記されています。

「C」には、「第1の記憶媒体」の「所定のキー」が読み込まれた場合に、「第2の記憶媒体」の「標準ゲームプログラム」と「拡張ゲームプログラム」の双方によってゲーム装置が作動することが記載されています。

つまり、この特許では、
・「FQ2のディスク」に「標準ゲームプログラム」と「拡張ゲームプログラム」の双方が包含されていること
・「FQ1のディスク」に包含されている「所定のキー」がゲーム機に読み込まれている場合に、「FQ2のディスク」の「標準ゲームプログラム」と「拡張ゲームプログラム」の双方によってゲーム装置が作動すること
の2つが必須の構成となっています。

ですので、別のディスクから新たにデータを読み込むような「パワーアップキット」方式は、本特許の権利対象ではありません。また、旧作のディスクからデータを読み込むような方式も、本特許の権利対象から外れると考えられます。

ここで、複数のカートリッジを装填した場合にゲーム内容が追加されるMSX版グラディウス2は、上記の特許出願より古いものであるため、請求項1に記載された権利を無効にできる可能性があります。また、旧作のセーブデータをキーとして使うようなものも、上記の特許出願以前からあるかもしれません。
しかしながら、ゲーム機を1つの読み取りドライブのみを備えるゲーム機に限定し、ディスクやカセットの入れ替えが必要な権利に限定してしまえば、無効にすることは難しいのではないかと考えます。

2014年8月7日木曜日

漫画の中で実在の商品を登場させる場合の知財権について

結論:著作権の使用許諾が必要な場合がある。意匠権、商標権は考慮しなくてよい。

・まず、意匠権について

意匠権というのは、工業デザインを保護するための権利です。

意匠権を取得する際には、デザインと、そのデザインが何の物品についてのものであるか、ということを明記した書類を特許庁に提出します。

そして、デザインが同一又は類似であって、かつ、そのデザインが適用された物品が同一又は類似の場合に、意匠権の効力が及ぶことになります。

つまり、例えば、車両の意匠権を持っていても、その車両のデザインがミニカーに使われた場合は、意匠権の侵害に該当せず、その車両の意匠権に基づいて、ミニカーの製造販売の差止・侵害訴訟を起こすことはできません。「車両」と「車おもちゃ」では物品が非類似だからです。

このように、意匠登録されている物品のデザインであっても、その物品と同一又は類似している物品に使われているもので無い限り、権利は及びません。当然、漫画に、意匠登録されているデザインの絵を描いても意匠権の侵害には該当しません。

・次に、商標権について

商標権というのは、ブランドの信用を保護するための権利です。

商標権を取得する際には、商標(ロゴや名称)と、その商標を何の商品やサービスに使うのか(指定商品又は指定役務と呼びます)、ということを明記した書類を特許庁に提出します。

そして、商標が同一又は類似であって、かつ、その商標が使用された指定商品又は指定役務が類似する場合に、商標権の効力が及ぶことになります。

ここで、「商標の使用」について商標法2条3項各号に列記されています。おおざっぱに言うと、その商品・サービスの出所を示すように商標を使うと、商標権の効力が及ぶことになります。

漫画の中に商品名(K○F)を記載しても、その漫画がその商品に関連する会社(S○K)が出版したものだとは考えないですよね?つまり、商標としての使用に該当しないので、商標権の効力は及びません。

なお、漫画の中で商標が記載されてしまった結果として、その商標が一般名詞化してしまう(例えば、「ファミコン」がテレビゲーム機全般を表す言葉として認知されてしまう)と、商標権の効力が弱くなるなどの不都合が生じます。そこで、「AはB社の登録商標です」と記載することで、登録商標の一般名詞化を防止しています。

・著作権について

著作権については、それほど詳しくないので簡単に。

ゲームのキャラクターを表す絵を真似て漫画に登場させると、著作権の侵害に該当します。

また、ゲームのロゴを漫画に登場させると、商標権の侵害には該当しませんが、そのロゴに創作性があると認められる場合には、著作権の侵害に該当する可能性が出てきます。

なお、車両のデザインなど、工業製品のデザインには原則的に著作権が発生しません。著作権は、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものについてのみ発生し、車両のデザインは、美術品に該当しないと考えられているからです。ただし、車両に描かれている絵やデカールやロゴについては、著作権が発生する可能性があります。

なお、当然ですが、法律だけではなく、業界慣習にも従うべきであると考えます。

また、上記の文章では、分かりやすさを優先して法律的な正確さを落としている箇所があります。